サラリーマンの鷹藤優騎は残業を終えるとデスクを離れ、エレベーターで下りて行った。エレベーターは順調に下ってゆくが、これが悲劇の始まりだった。

ガタン

「わっ!」

突然揺れた瞬間エレベーターは停止した。優騎は突然の状況に唖然とするが、すぐに非常ボタンを押した。

「頼むから繋がってくれ・・・」
祈るように押すが、非常ボタンは反応すらしなかった。

「非常ボタンがだめならこれだ。」
優騎はそう言うとスマホを取り出した。これで外部に連絡が取れるだろう。そう考えるが圏外で繋がらなかった。

「外に連絡取れないとか最悪じゃん。」
項垂れる優騎。連絡取れないならどうするか・・・だったらこれしかないと一か八かでドアを開けた。エレベーターは6階で停止したのでその先が乗り場のドアならそれも開けて出られる。思ったよりも簡単に開いたが、目の前に広がったのは壁だった。

この時自分が乗ったエレベーターは幾つかの階を通過する速達仕様で6階は通過だったのだ。ならば壁を壊せる道具はないかと鞄を漁るが、もちろんそんな物は入っていない。脱出手段を完全に失いもう終わりかと思う優騎。しかし彼は諦めなかった。

「だったらこうだ。」
優騎はドアを開けながら飛び跳ねた。こうすれば少しずつ最寄りの階まで下がるだろうと一生懸命ジャンプするが、ガイドレールで挟まれてるからか1ミリも動かなかった。

完全に追い込まれた優騎は誰かが気付くのを待つが、すでに夜遅くを回っていてビルには誰もいないに等しい状況だった。

「何でこんな目に遭うんだ。俺が何したってゆうんだよ!」
途方に暮れた優騎はこのまま死ぬんじゃないかと想像しドアを開けると目の前の壁を蹴りだした。素手や素足でコンクリを破壊出来たらと思うが、超人じみた力を持たない普通の自分にはとてもじゃないけど出来ないことだった。

普通に生まれ育ち、普通に社会人となった今いつかは家庭を持って子孫たちに恵まれる幸せな日々を想像していたが、それも叶わなくなりそうな状況に絶望感が滲み出てきていた。

すると突然電気が消え、エレベーターは真っ暗になった。突然の停電に驚く優騎。
やがてエレベーターは激しく揺れだした。まるで地震が来たかのような揺れに立っていられないほどだった。

そして揺れが収まるとエレベーターは上昇し始めた。

「復旧したのか?」
エレベーターは動き出すも電機は消えたままだった。それでも助かる見込みが立ってホッとするが、階数表示を見て愕然とした。

「嘘だろ・・・」
上昇を続けるエレベーターはどんどん加速していた。そして最上階である30階を越えると天井に激突したのだった。衝突の衝撃でエレベーターは激しく揺れた。

すると今度は足元が浮くような感覚がしてもしやと感じる優騎。そしてロープが切れて落下したのだ。

「今度こそやばい。」
優騎は覚悟を決めるが、非常ブレーキの存在を思い出し止まることを祈った。しかしブレーキはかかることなく最下層まで落下し、すさまじい衝撃が起きた。

散々な目に遭い気がおかしくなりかけるが、1階に大きな衝撃が伝わったことで今度こそ救助が来ると信じる優騎だが、時刻はすでに深夜。ビルの前の人通りも減り、エレベーターの異変に気付く者はいなかった。

途方に暮れる優騎。すると今度は雷の音が鳴り響いた。

「もう勘弁してくれよ・・・」
精神的に追い込まれるが、ここはエレベーターの中。万が一雷が落ちても何とか免れるのではと考えた。しかし雷がビルを直撃すると火の海になった。

そしてエレベーターにも火の手は迫り、優騎は炎に囲まれてしまった。

「嫌だ!死にたくない!こんな形で死ぬのは・・・って熱っ!!」
エレベーター内はあっという間に火の海となった。

翌日、懸命な消火活動によって火は消えたが、ビルは全焼。焼け焦げたエレベーターから一人の男性の遺体が発見された。
司法解剖の結果遺体はこのビルに勤務する鷹藤優騎と判明。優騎はエレベーター内で焼死したのだった。

その後、火災現場のビルのエレベーターは非常ボタンが故障してたにもかかわらず放置されてたこととロープが劣化していつ切れてもおかしくないのに放置されていたことなどが判明し、再建後はより厳格な検査が強化されたのだった。

終わり

戻る

TOP